市販の抗ヒスタミン薬やステロイド外用薬は、湿疹や蕁麻疹のように皮膚表面でヒスタミンなどの炎症性物質が放出される「末梢性のかゆみ」を鎮める設計になっています。ところが、肝機能障害に伴うかゆみに対してこれらはほとんど効果を発揮しません。その理由は、かゆみの発生源が皮膚の外側ではなく、中枢神経を含む体内の深部で引き起こされているからです。
日本肝臓学会や日本皮膚科学会の臨床研究において、肝機能障害に伴うかゆみの主因として解明されているのが「胆汁うっ滞」と「内因性オピオイドの過剰分泌」という2大ルートです。
肝臓で生成された胆汁は、脂肪の消化吸収を助けるために胆管を通って十二指腸へと排出されます。しかし、肝炎や肝硬変、胆管炎、あるいは胆石などによって肝細胞が障害を受けると、胆汁の流れが滞る「胆汁うっ滞」が発生します。行き場を失った胆汁酸やビリルビンなどの成分が毛細血管へ逆流し、血流に乗って全身の皮膚組織へと巡ります。これが皮膚に分布する知覚神経の末端を直接刺激し、執拗なむず痒さを引き起こすのです。
さらに近年、脳内の中枢神経系で働くオピオイド受容体のアンバランスがかゆみの増幅に直結していることが立証されました。肝機能が低下すると、かゆみを引き起こす「μ(ミュー)オピオイド」が過剰優位になり、かゆみを抑える「κ(カッパ)オピオイド」の働きが鈍化します。つまり、脳自体がかゆみのシグナルを過剰に感知し、暴走している状態に陥るわけです。これが「薬を塗っても一向に効かない」不可解な症状の真実です。