『薬屋のひとりごと』の物語を追う読者が最も固唾をのんで見守っている「二人は結ばれるのか、それとも身分差に引き裂かれるのか」という問いに対し、原作小説が提示している回答は、甘いおとぎ話とは一線を画すリアリズムに満ちています。結論から言えば、二人は精神的・肉体的な距離を限りなく縮めており、実質的なパートナーシップを築いているものの、公に結婚式を挙げた状態には至っていません。
ネット上で「すでに結婚した」という言説が流布した背景には、壬氏が猫猫に対して行った「自分の妻にする」という決定的な誓いと、周囲の有力者たち(羅一族や皇室周辺)が猫猫を「壬氏の唯一の相手」として認知し始めた経緯があります。猫猫自身、当初は壬氏からの好意を「厄介ごとの種」「高貴な御方の気まぐれ」として徹底的に受け流していましたが、度重なる事件と壬氏の剥き出しの執着を前に、もはや彼を他人事として切り捨てることはできなくなりました。
物語の根底にあるのは、後宮という閉ざされた階級社会の残酷さです。花街の売れっ子妓女の娘として生まれ、自らを「傷物」と規定して生きてきた猫猫にとって、天上の人間である壬氏と結ばれることは、自由の喪失であり破滅への入り口を意味していました。しかし、壬氏が自身の立場をかなぐり捨ててでも猫猫を選ぼうとする姿勢を見せたことで、二人の関係は「主従」から「共犯者」、そして「かけがえのない魂の片割れ」へと変貌を遂げています。