かつて世界の動物学界を揺るがした有名な論争があります。2008年に英科学誌『Science』に掲載された英国王立動物虐待防止協会(RSPCA)などの研究チームによる論文は、「ヨーロッパの動物園で飼育されているアジアゾウの中央値寿命は約19年であり、保護区の使役ゾウ(約42年)の半分以下である」という衝撃的な調査データを公表しました。
「天敵もおらず医療ケアを受けられる動物園の方が長生きするはず」という一般常識は、かつて決定的な盲点を抱えていました。コンクリート床による蹄病(ひづめの炎症)、運動不足による肥満、そして母系社会を引き裂かれたことによる精神的ストレスが、飼育個体の寿命を著しく縮めていたのです。
この歴史的な批判を契機に、世界中の動物園は飼育方針を根本から見直しました。床材をコンクリートから足腰に優しい厚い砂や土へと変え、日常的にフットケア(爪切りや足裏の洗浄)を行うハズバンダリートレーニングを導入。その結果、2026年現在の先進的な動物園では、野生に引けを取らない長寿を記録する個体が当たり前になっています。