なぜ行司の給料にはこれほど極端な階級格差が残されているのでしょうか。その背景には、日本相撲協会の厳格な組織論と、わずか「定員45名」という極小市場の構造があります。
定員45名が生み出す完全な「空席待ち」
日本相撲協会の規程において、行司の定員は全国で原則45名以内と定められています。各階級ごとのポスト枠も厳密に固定されています。
- 立行司:最大2名(木村庄之助・式守伊之助)
- 三役格行司:3〜4名程度
- 幕内格行司:9〜10名程度
- 十両格行司:8名程度
- 幕下格以下:残り全枠
力士であれば、白星を重ねて勝ち越せば実力次第で20代前半でも大関・横綱へとスピード出世が可能です。しかし行司の場合、上の階級にいる先輩が65歳の定年を迎えるか、自ら廃業・退職しない限り、空席は絶対に生まれません。
どれほど軍配裁きが正確で、美事な相撲字を書き、観客を魅了する掛け声を響かせようとも、席が空かなければ昇進は不可能です。優秀な行司であっても、40代前半まで十両格や幕下格に据え置かれるケースが日常茶飯事となっています。この極端な年功序列とポストの絶対的不足こそが、行司の給料格差を生み出す最大の元凶です。
足袋と草履を許される「十両格」の壁
行司にとって最大の昇進分岐点は「十両格への昇格」です。十両格に上がると、身分が「部屋の雑用係」から「プロの専従職員」へと明確に格上げされます。
- 履物の権利:幕下格までは真冬の土俵であっても素足ですが、十両格からは「白足袋」と「草履」の着用が許されます。
- 個室の付与:相撲部屋の大部屋生活を脱し、部屋内で個室が与えられるか、通い(自宅通勤)が認められます。
- 退職金積立の本格化:日本相撲協会の正式な共済年金や退職金規定が手厚く適用され始めます。
行司の退職金は、定年(65歳)まで勤め上げた立行司や三役格であれば数千万円規模に達するとされます。勤続40年〜50年に及ぶ長年の貢献に対する報償制度は極めて強固です。若手の薄給を耐え抜いた者だけが、晩年の高額報酬と退職金を手にできる終身雇用型の富の再配分システムが構築されています。