パワハラ被害者が追い詰められた末に陥りやすい最大の罠が、衝動的に「一身上の都合」として退職届を提出してしまうことです。自己都合退職扱いになると、雇用保険の基本手当(失業保険)の受給において、給付制限期間が課されるだけでなく、受給日数も大幅に短縮され、生活防衛上で極めて不利な立場に立たされます。
ネット上の掲示板やSNSを検証すると、「パワハラに耐えかねて即日退職したら、自己都合扱いにされて失業保険が数ヶ月出ず、経済的に追い詰められた」という悲痛な声が散見されます。こうした事態を防ぎ、泣き寝入りしない方法として極めて重要なのが、ハローワークを通じた会社都合退職への切り替え(特定受給資格者の認定)です。
雇用保険法上、上司や同僚からのハラスメントにより健康被害が生じたり、就労環境が著しく悪化したことで退職を余儀なくされた場合、退職届に「一身上の都合」と書いてしまっていた後からでも、ハローワークに異議を申し立てることで「特定受給資格者(会社都合と同等の扱い)」として認定される道が開かれています。
認定を受けるための決定打となるのが、前述した心療内科の診断書(「職場のハラスメントに起因する適応障害」等の記載)と、ハラスメントの事実を記した詳細な日記・メモです。ハローワークは労働者からの申し立てを受けると、会社側に対して事実関係の照会を行います。会社側がハラスメントを否定した場合であっても、労働者側から客観性の高い通院記録や詳細なメモが提出されていれば、行政判断によって特定受給資格者として認められる確率は極めて高くなります。
会社都合扱いに切り替われば、7日間の待期期間終了後すぐに失業手当の給給が開始され、受給期間も自己都合の最大150日から最大330日(年齢・被保険者期間による)へと大幅に拡大されます。当面の生活費を確保することは、精神的な余裕を取り戻し、その後の損害賠償請求や転職活動を進める上での強固な生命線となります。