医療機関で「念のため抜いておきましょう」と勧められるがままに手術を受け、その後の経過に絶望するケースには明確なパターンが存在します。臨床現場の報告および患者の追跡データから浮かび上がる親知らず抜歯後悔理由の根底には、抜歯前のインフォームドコンセント(説明と同意)の不足と、術後合併症に対する認識のギャップがあります。
後悔の筆頭に挙げられるのが、術後数日経ってから突如として襲いかかる激痛、すなわち「ドライソケット(抜歯窩治癒不全・抜歯窩骨炎)」の発症です。通常、歯を抜いた穴には血液が溜まり、ゼリー状の「血餅(けっぺい)」というかさぶたが作られて露出した骨を保護します。しかし、何らかの理由で血餅が形成されなかったり脱落したりすると、骨の表面が口の中に直接露出してしまい、骨炎を引き起こします。この状態に陥ると、市販薬はもちろん歯科医院で処方された親知らず抜歯ロキソニン効かないという耐えがたい激痛が1〜2週間以上にわたって続き、「こんな痛みに苦しむなら抜かなければよかった」と精神的にも追い詰められることになります。
さらに深刻な要因が、抜歯に伴う神経損傷です。下顎の親知らずの根元近くには、下顎骨の中を通る「下歯槽神経(かしそうしんけい)」という重要な神経幹が走行しています。下顎の埋伏智歯を抜歯する際、この神経が器具や歯根によって圧迫あるいは損傷を受けると、下歯槽神経麻痺しびれという後遺症が生じる可能性があります。唇やオトガイ部(顎の先)の感覚が鈍くなり、麻酔が切れ残ったようなしびれが数ヶ月から年単位、重症例では生涯にわたって残る事例も報告されています。事前のCT検査で立体的な位置関係を把握していなかった場合、取り返しのつかない親知らず抜歯後遺症リスクとして患者の人生に重くのしかかります。
身体的な不調だけでなく、審美面での違和感も後悔の引き金になっています。ネット上では「親知らずを抜くと小顔になる」という俗説が長年信じられていますが、現実は真逆の事態を招くことがあります。抜歯後に顎周囲の骨が吸収されたり、長期間の腫れや食事制限によって咀嚼筋が衰えたりすることで、親知らず抜歯輪郭変化頬こけが引き起こされ、「顔の印象がやつれて老け込んでしまった」と悔やむ声も少なくありません。