森と林の差異を辿る知的な探訪は、最終的に「日本人がいかに自然と関わってきたか」という環境文化論の核心に行き着きます。
近代以降の日本社会では、戦後の復興期から高度経済成長期にかけて、膨大な天然林(森)が伐採され、木材自給を目的としたスギ・ヒノキの人工林(林)へと急速に転換されました。その結果、現在では国土の森林の約4割が人工林となっています。しかしその後、安価な輸入木材の台頭や林業の担い手不足により、手入れを前提として作られた「林」が放置され、土砂災害の誘発や花粉症の深刻化といった社会問題を引き起こすに至りました。
本来の「林」とは、人間が手を入れることで健やかさを保ち、多様な里山生態系を維持するための空間でした。そして本来の「森」とは、人間の無分別な介入を拒み、豊かな水源を育み生物の多様性を守る聖域でした。「手を入れるべき林を放置せず、保全すべき森を侵食しない」というバランスの崩壊こそが、現代の森林環境が直面している課題の根本にあります。
日常の中で森と林という言葉を使うとき、私たちは単に木の数を数えているのではなく、自分たち人間と自然界との「距離の測り方」を無意識に選択しています。この言葉の重みを再認識することは、単なる雑学の習得にとどまらず、自然と調和した未来の暮らし方を思索する第一歩となるはずです。