仕込みの段階から異次元のこだわりが詰まっている。低温でじっくりと時間をかけて発酵させる自家製液状天然酵母「ルヴァン」こそが、この店のパンに命を吹き込む最大の鍵だ。酸味が強すぎず、噛みしめるほどに小麦本来のやさしい甘みと奥行きのあるコクが口いっぱいに広がる。大量生産のイーストフードに頼るパンとは一線を画す、力強い風味がそこにはある。
生地の温度管理は1度単位。湿度の変化にも職人が長年の勘と計測器を駆使して極限まで気を配る。釜から出されたばかりのバゲットを耳に近づけると、表面のクラストが外気に触れて「パチパチ」と小さな音を立てて囁く。職人たちが「パンの歌」と呼ぶこの現象こそ、内側まで理想的に熱が通り、完璧な発酵を遂げた証拠なのだ。