袴田さんの無実が確定したことで、避けて通れないのが「では、誰が一家4人を惨殺したのか」という真相の追究です。当時から地元関係者や一部の調査報道記者の間では、警察の初動捜査の見込み違いと、真犯人に関するいくつかの具体的な疑惑が指摘されていました。
有力視されていた仮説の一つが、「工場の内情に精通した内部関係者あるいは専務周辺の人物による犯行」です。事件当時、専務宅の金庫からまとまった売上金が奪われていたこと、施錠状況や間取りを把握していなければ短時間で4人を刺殺し放火することは困難であったことから、外部の行きずりの犯行ではなく、明確な怨恨や金銭トラブルを抱えた顔見知りの犯行が強く疑われていました。
また、当時の静岡県内における「暴力団関係者や借金トラブルを巡る噂」も根強く存在していました。被害者宅周辺で事件直前に不審な車両や人物が目撃されていた情報があったにもかかわらず、警察は「元ボクサーで刃物の扱いに慣れている」という短絡的な偏見から袴田さん一人にターゲットを絞り込み、他の不審者情報を捜査線上から完全に排除してしまった経緯があります。
残念ながら、旧刑事訴訟法における強盗殺人罪の公訴時効(当時は15年)はとうの昔に成立しており、現在から真犯人を特定して刑事責任を問うことは法的に不可能です。警察が初動捜査で客観的証拠を追わず、自白偏重と証拠捏造に走った結果、真犯人を永久に野放しにしてしまったという冷厳な事実が残されています。