日本の鍋焼きうどん文化を語る上で外せないのが、愛媛県松山市で独自の進化を遂げたご当地うどんです。松山市内には、昭和22年創業の「ことり」や昭和24年創業の「アサヒ」といった松山鍋焼きうどん名店が今なお行列を作り続けています。
松山の鍋焼きうどんには、全国的な標準とは異なる3つの際立った特徴があります。
・使い込まれた小ぶりなアルミ鍋: 蓋つきのレトロなアルミ鍋で提供され、蓋を開けると甘辛い香りが一気に広がります。
・驚くほど甘いつゆ: いりこ(煮干し)と利尻昆布ベースのだしに、みりんやざらめ、牛肉の甘辛煮の煮汁が溶け込んだ、独特の濃厚な甘み。
・柔らかな太麺: 讃岐うどんのような強いコシではなく、ふんわりと出汁を吸い込んだ優しい口当たりの麺。
この甘口出汁文化は、戦後の復興期において「甘いもの=最上のご馳走・豊かさの象徴」であった歴史的背景や、瀬戸内海の穏やかな風土に育まれた味覚体系が深く反映されています。家庭で松山風を再現するなら、すき焼きのタレで甘辛く煮た牛肉と油揚げをトッピングし、だしに小さじ1の砂糖を加えることで、郷愁を誘う絶品の甘口仕立てが楽しめます。