『ひよっこ』が歴代の朝ドラの中でも特異な傑作とされる最大の理由は、岡田惠和による卓越した脚本術にあります。朝ドラの定石であった「歴史上の偉人の一代記」や「劇的な悪役との対立」をあえて排し、「どこにでもいる無名の人々が助け合って生きる日常」を主軸に据えました。
劇中では、みね子の父・実(沢村一樹)が記憶を失って失踪するという大きな試練が描かれます。しかし、記憶を失った父を無理に元の状態に戻そうと責め立てるのではなく、新しい家族の形として受け入れ直す「谷田部家の再生」は、家族の絆を問い直す名シーンとして多くの涙を誘いました。善意とユーモア、そして少しの哀愁を交えた会話劇は、岡田脚本の真骨頂と言えます。
また、桑田佳祐が書き下ろした主題歌「若い広場」の存在も決定打でした。昭和30〜40年代の歌謡曲やポップスへのオマージュを散りばめた哀愁あるメロディと合唱風のコーラスは、オープニングのタイトルバック(昭和のミニチュアジオラマ)と完璧に融合。毎朝の放送を通じて、当時を知るシニア層には心地よいノスタルジーを、若い世代には新鮮な温かさを届けました。
さらに、物語の主要舞台となった洋食店「すずふり亭」の佇まいや、奥茨城村の原風景(茨城県高萩市や大子町などのロケ地)が醸し出す映像美も、作品のリアリティを支える強固な土台となりました。