なぜ両者はこのようなリスクを冒したのでしょうか。その裏には、巨大テック企業と巨大音楽レーベル、そして大御所バンドの思惑が複雑に絡み合っていました。当時、AppleはiTunesの優位性を保ちつつ、音楽業界における主導権を盤石にすることを狙っていました。一方、U2側は新作を世界で最も効率的に、かつ瞬時に何億人もの耳へ届ける手段を求めていたのです。
ボノは後に自伝やインタビューで、このアイデアを自らティム・クックに持ちかけたことを認めています。「無料で配るのではない。Appleが購入し、ファンにプレゼントするのだ」という発想でした。報道によれば、Appleはアルバムのライセンス料や共同マーケティング費用として、5,000万ドル以上の巨額資金を支払ったとされています。商業的には大成功に見えるスキームでしたが、受け手であるユーザーの感情を完全に踏みにじる結果となりました。