本格麦焼酎「いいちこ」のCMといえば、商品を過度にアピールせず、美しい旅情や季節の移ろいを静かに切り取る独特の映像美が特徴です。このアートディレクションを一貫して率いてきたのが、日本を代表するグラフィックデザイナー・アートディレクターの河北秀也氏でした。河北氏が掲げた「お酒そのものを売るのではなく、お酒が寄り添う豊かな時間と情緒を届ける」というフィロソフィーが、ビリー・バンバンの音楽性と奇跡的な調和を生み出すことになります。
三和酒類の社内資料や過去の制作秘話によると、タイアップの萌芽は1990年代初頭に遡ります。それまでのCM音楽はインストゥルメンタルや海外アーティストの楽曲も試みられていましたが、成熟した大人の哀愁と日々の生活に寄り添う温もりを求めて選ばれたのが、弟・菅原進氏のどこまでも透き通るハイトーンボイスと、兄・菅原孝氏の包容力あるベースと語りでした。
1969年に『白いブランコ』で鮮烈なデビューを飾り、フォークブームを牽引したふたり。一度は解散と個々の活動を経て1984年に再結成していた彼らにとって、「いいちこ」との出会いは第二の黄金期を拓く運命的なタイアップとなりました。画面に映し出される雄大な自然と菅原進氏のアコースティックなメロディは、居酒屋や自宅の晩酌でグラスを傾ける人々の心に、静かな余白と深い癒やしを提供し続けています。