富士山の山頂付近に留まる笠雲は、一見すると空に静止しているように見えます。しかし、実際には「常に猛烈な風の中で生まれ、消え続けている」というダイナミックな大気現象です。
笠雲が発生する基本的なメカニズムは、湿った空気が富士山という孤立峰に衝突することから始まります。太平洋側から暖かく湿った南寄りの風が吹き込むと、逃げ場を失った気流は富士山の急斜面に沿って上空へと駆け上がります(強制上昇)。
空気が上昇すると、上空の低い気圧によって急激に膨張し、温度が下がる「断熱冷却」が発生。空気に含まれていた水蒸気が飽和点に達して凝結し、無数の細かな水滴となって雲を形成します。そして、山頂を越えて下降気流に転じると、今度は断熱圧縮によって温度が上昇し、水滴が蒸発して雲が消滅します。
この「風上側で次々と生まれ、風下側で次々と消える」という循環が同じ場所で繰り返されるため、遠くから見ると山頂に雲が帽子のように鎮座して静止しているように見えるのです。気象学的には「レンズ雲(高積雲や層積雲の一種)」に分類されます。
この現象が起きる絶対条件は、「上空に強い風が吹いていること」と「下層から大量の湿った空気が供給されていること」の2点です。日本列島においてこの条件が揃う典型的なシチュエーションこそが、西から近づく低気圧や温暖前線の前面です。つまり、笠雲の出現そのものが、雨を降らせる巨大な気圧配置が間近に迫っている動かぬ証拠となります。