英語学習者が中学校の初期段階で叩き込まれる文法ルールに、「水(water)は液体であり形を持たないため、数えられない名詞(不可算名詞 / Uncountable noun)である」という原則があります。したがって「a water」や「waters」という表現は誤りであり、「a glass of water(グラス1杯の水)」や「a bottle of water(ボトル1本の水)」と単位を表す言葉を補わなければならないと指導されます。
しかし、海外のカフェやファストフード店に足を踏み入れると、ネイティブスピーカーが平然と「Can I get a water, please?」とオーダーしている場面に直面します。この現象は文法崩壊ではなく、言語学における「容器・ポーションの省略(Packaging / Ellipsis)」という確立されたメカニズムによるものです。
日常会話において、文脈上「コップ1杯の水」や「市販のペットボトル1本」であることが自明である場合、いちいち「a bottle of」を言わずに「a water」と単数形不定冠詞を前置することが口語表現として公認されています。ビールを頼む際に「a beer」と言うのと全く同じ現象です。
さらに興味深いのが、複数形の「waters」が存在する特殊な背景です。waterにaやsが付く特殊な経緯を掘り下げると、主に3つの公式な文脈で複数形が用いられます。
第1に「特定の水域・領海・海域」を指す場合です。国際法や地政学ニュースで目にする「territorial waters(領海)」や「international waters(公海)」、「coastal waters(沿岸水域)」という表現が典型例です。第2に「温泉地や鉱泉の源泉」を指すケース(例:the mineral waters of Bath)。第3に、聖書や文学作品で「洪水や押し寄せる大水」を象徴的に描く修辞表現です。このように、日常会話の容器省略から学術的・法的な水域指定に至るまで、不可算名詞の枠を超えたダイナミックな使い分けが存在しています。