五輪マークに関して、インターネット上やSNSでしばしば見られる誤解は大陸の割り当てだけにとどまりません。現場取材や公文書の調査によって判明した、代表的な3つの盲点を整理します。
1. 「5つの輪=世界の全大陸」ではない(南北アメリカの扱い)
五輪マークが表す「五大州」とは、アジア、ヨーロッパ、アフリカ、オセアニア、そして「アメリカ(南北アメリカを一括りとした1つの大陸)」です。地理学的に南北アメリカを分ける現代の「六大陸」の概念とは異なり、近代オリンピック草創期のヨーロッパにおける伝統的な五大州の区分に基づいています。したがって、「南極大陸が含まれていない」「北米と南米で輪が足りない」といった指摘は、当時の世界観を反映した区分であることを理解すれば解消されます。
2. オリンピック旗の初掲揚は1920年アントワープ大会
マーク自体は1913年に完成し、1914年に披露されましたが、実際の大会でオリンピック旗としてスタジアムに掲揚されたのは、第一次世界大戦の惨禍を経て開催された1920年のアントワープ大会(ベルギー)でした。大戦によって引き裂かれた世界が再びスポーツを通じて集う場で、すべての国旗の色を内包する五輪旗が翻った瞬間は、まさに平和の再構築を告げる歴史的象徴となったのです。
3. 「五輪」という漢字表記の名付け親は日本人記者
日本で「オリンピック」を「五輪」と表記するようになったのは、1936年ベルリン大会の直前のことです。当時、読売新聞の記者であった川本信正氏が、新聞の見出しで字数を節約しつつ視覚的に読者へ伝えるため、五輪マークの形状と仏教用語の「五輪塔」から着想を得て考案した造語でした。この秀逸な略称が爆発的に普及し、日本語圏独自の定着を見せることになりました。
【プロの結論】情報リテラシーの視点から見出すべき教訓
五輪マークの色の意味をめぐる一連の誤解は、私たちに「広く信じられている定説であっても、一次情報(創始者の手記や公式憲章)に立ち返ってファクトチェックを行うことの重要性」を教えてくれます。
わかりやすい図式化や都市伝説に流されず、そのシンボルが作られた本来の歴史的文脈や思想的背景を正しく理解することこそが、真の国際理解と豊かな教養につながります。スポーツの祭典を観戦する際も、単なる勝敗だけでなく、その旗の下に込められた「差別なき人類の共生」という100年以上の祈りに思いを馳せる視点が求められます。