1981年秋。前作までの明るいポップ路線から一転、哀愁漂うマイナー調のメロディがラジオから流れてきた。それが「風立ちぬ」だった。
作曲・編曲を手掛けたのは、伝説のシンガーソングライターでありプロデューサーの大滝詠一。彼の代名詞である「ナイアガラ・サウンド」が、松田聖子の圧倒的なボーカルと出会った瞬間である。多重録音による重厚なアコースティックギターとストリングス。そこに負けない聖子のキャンディ・ボイス。この絶妙なバランスは、当時の歌謡界において極めて異質であり、同時に極上のポップスだった。
レコーディング時、大滝の徹底したこだわりに対し、聖子は喉のコンディションが万全でない中でハスキーな歌声を響かせたという。しかし、その「かすれ」こそが、楽曲に唯一無二の切なさと深みを与える結果となった。