TBSを離れた伊東さんが次の活動拠点に選んだのは、現代アートの発信地として世界中のクリエイターが集まるドイツ・ベルリンでした。英語もドイツ語もネイティブではない異国の地への単身移住は、周囲にとって極めて無謀な挑戦に映りました。
数ある都市の中でなぜベルリンだったのか。その理由は、街全体に息づく「他者の目を気にせず、誰もが自分らしく生きられる寛容さ」にありました。肩書や社会的ステータスが個人の価値を決定づけがちな日本社会から離れ、誰も「元TBSアナウンサー」という色眼鏡で見ない環境に身を置くことこそが、彼女にとって表現の純度を高めるための絶対条件だったのです。
現地でのベルリン生活は、決して優雅なものばかりではありませんでした。アトリエ兼住居の確保、ビザの取得手続き、語学の壁、冬の厳しい寒さなど、生活の立ち上げには相当な苦労を伴いました。しかし、そうした孤独や生活者としてのリアルな摩擦が、彼女のキャンバスに強烈なエネルギーを注入することになります。
ドイツの地で彼女が描いた絵画作品は、アナウンサー時代のパブリックイメージを覆すものでした。鮮やかな色彩の奥に人間の孤独や祈り、生命の生々しさが宿る独特のタッチは、現地のクリエイターコミュニティでも着実に注目を集め、絵本作家としてのプロット制作やキャンバス画の大型制作へと活動の幅を広げていきました。