なぜ腕に自信のある外科医たちが、かつて権威の象徴であった大学医局を離脱するのか。厚生労働省の調査報告や日本外科学会のキャリア動向調査、SNSや専門コミュニティに集まる第一線の医師たちの告白から、共通する要因が浮き彫りになっています。
第1の理由は、「業務量と報酬の不均衡」です。医師の働き方改革によって2026年から時間外労働の上限規制(原則年960時間・特例年1860時間)が課されましたが、その実態として、書類作成やカンファレンス準備などの自己研鑽名目の無給労働が依然として温存されるケースが現場から報告されています。高度な技術を習得した中堅外科医ほど、「組織の雑務から解放され、執刀時間に見合った真っ当な報酬を得たい」という動機を強めています。
第2の理由は、「医局人事によるキャリアの分断」です。教授や医局幹部の一存で数年ごとに僻地病院や関連病院への異動を命じられるシステムは、子育て世代の医師や、特定の術式を極めたい専門医にとって大きな足枷となります。家族との生活基盤を守りながら自ら執刀先を選ぶ自己決定権の獲得が、離脱を強力に後押ししています。
第3の理由は、「研究・論文執筆プレッシャーからの解放」です。大学病院では臨床成績だけでなく、学術論文の発表本数や科研費の獲得が昇進の絶対条件となります。「研究者ではなく純粋な職人(術者)として患者の治療に専念したい」と願う外科医にとって、医局に居続ける心理的コストはあまりに高くなっているのです。