「献上(けんじょう)」とは、主君や身分の高い人物、とりわけ天皇や皇族に対して品物を差し上げることを意味する言葉です。「献」という漢字には「神仏や目上の人に物を差し出す、たてまつる」という意味があり、「上」は目上の存在を指します。言葉そのものが最上級の敬意を含む謙譲語として機能しています。
日本の歴史において、天皇や朝廷へ地域の特産物を納める行為は古代から連綿と続いてきました。飛鳥・奈良時代の「租・庸・調」に代表される税制や、各地の国司が名産品を宮中に納めた「貢進(こうしん)」が献上の起源とされています。平安時代の『延喜式』には、諸国からどのような海産物や絹織物が宮中に納められていたかが詳細に記録されており、これが現代まで続く「地域の最高品質の品を中央へ届ける」という文化の基礎となりました。
中世から近世にかけては、武家社会の発展とともに朝廷だけでなく将軍家への進物も「献上」と呼ばれるようになります。その代表格が「献上博多織」です。慶長5年(1600年)、筑前福岡藩の初代藩主となった黒田長政が、幕府への忠誠と領内の産業振興を目的として、博多織の帯地を徳川将軍家へ献納品として指定したことに由来します。仏具である独鈷(とっこ)や華皿(はなざら)を意匠化した伝統柄は「献上柄」として定着し、国の重要無形文化財として現在も高い評価を受けています。