お千代保稲荷の参道には約120軒もの商店がひしめき合っていますが、その中心軸を担っているのが紛れもなく串カツ店です。なぜこれほどまでに「おちょぼさん=串カツ」という図式が定着したのでしょうか。その背景には、稲荷信仰の歴史と、名古屋・岐阜を中心とする濃尾平野の食文化が見事に融合した必然性があります。
古くから商売人が集まるお千代保稲荷では、「手早く食べられて精がつくもの」が求められてきました。豚肉を一口サイズにカットしてカラリと揚げた串カツは、参拝前後の忙しい商人たちにとって格好のファストフードでした。さらに、愛知・岐阜の食文化の象徴である赤味噌(豆味噌)で豚ホルモンをじっくり煮込んだ「どて煮(どて串)」の大鍋が店頭に据えられ、その濃厚な味噌ダレに揚げたての串カツをドボンとくぐらせるスタイルが確立されたことで、唯一無二の参道グルメへと進化を遂げたのです。
現場を訪れると実感するのは、五感を強烈に刺激するライブ感です。目の前の大鍋でパチパチと音を立てて揚がる串カツ、湯気を上げるどて煮の鍋、職人の威勢の良い掛け声。店先で立ったまま、熱々の串をハフハフと頬張りながら冷たいお茶やビールを流し込む体験は、現代の飲食店が忘れがちな「買い食いの原初的な喜び」を思い出させてくれます。