マグロ専門居酒屋のカウンターで「マグロの心臓の塩焼き」を口にした客の多くは、目を見開いて「これは本当に魚なのか」と漏らします。魚特有の脂の甘みやホロホロと崩れる身質とは対極にあり、繊維の一本一本が緻密に詰まった力強い歯ごたえ、噛むほどに溢れ出す鉄分を含んだ濃厚なアミノ酸の旨味は、完全に哺乳類のホルモン焼きを想起させます。
この特異な風味の理由は、マグロの生態にあります。時速数十キロで回遊し続ける外洋のトップアスリートであるマグロの心臓は、全身に膨大な酸素と血液を送り続ける強靭な筋肉の塊です。筋繊維には酸素を蓄えるミオグロビン(血色素タンパク質)が極めて高密度に蓄積されており、これが牛ハツや馬肉に酷似した深いルビー色と、野性味あふれるジビエのようなコクを生み出しています。
ネット上の口コミやSNSでのマグロの心臓の評判を検証すると、「レバーが苦手な人でもハツのようにサクサク噛み切れて食べやすい」「酒盗や塩辛以上に日本酒や重ためのハイボールが進む」といった絶賛の声が並びます。特に産地である静岡県焼津市や宮城県気仙沼市では古くから「ホシ」と呼ばれ、漁師や仲買人が真っ先に持ち帰る門外不出のスタミナ源として重宝されてきました。