奥鬼怒温泉郷の歴史を紐解くと、八丁の湯は昭和4年(1929年)の開湯に遡ります。全国の秘湯ファンから絶大な信頼を寄せられる「日本秘湯を守る会」の会員宿としても知られ、今なお創業当時の面影を残す木造本館と、カナダ直輸入の極太丸太を組み上げたログハウス群が美しいコントラストを描いています。
標高およそ1,300メートルの高地に位置し、周囲を取り囲むのは手つかずのブナやミズナラの原生林。日光の社寺周辺や鬼怒川温泉街の喧騒とは完全に隔絶された別世界です。登山客にとっては、鬼怒沼湿原や尾瀬方面への縦走拠点として古くから重宝されてきましたが、近年では日常の過剰な情報社会から離れ、精神的な静寂を求めるワーケーション層や若いカップルの姿も目立ちます。
現地を訪れた温泉ライターは「蛇口をひねれば当たり前にお湯が出る都市生活では決して味わえない、地球の鼓動を直に肌で感じる体験がある」と語ります。八丁の湯の最大の武器は、人工的な演出を排した自然との一体感であり、自然保護の観点から開発が厳しく制限された奥鬼怒温泉郷だからこそ守り抜かれた原風景がそこにあります。