チョークスリーパーの真の恐怖は、意識を失わせるための力加減と、相手を死亡あるいは重度の障害に至らしめる力加減の「マージン(安全域)」が極めて狭い点にあります。国内外の司法解剖記録や医療事故報告書には、素人同士のふざけ合いや喧嘩、部活動の不適切な指導によって引き起こされた凄惨な事故が記録されています。
過去の学校現場における柔道事故の検証報告によると、中学生同士の練習中、絞め技を仕掛けられた生徒が「まだ耐えられる」と過信してタップを遅らせ、数秒の間に失神。指導者や相手が意識喪失に気づかず十数秒間にわたって絞め続けた結果、不可逆的な低酸素脳症を発症し、一生涯にわたる重度麻痺や遷延性意識障害(いわゆる植物状態)に陥った事例が存在します。全日本柔道連盟(全柔連)が中学生以下の大会において裸絞を全面的に禁止ルールとした背景には、成長期の子どもの頸椎・頸動脈の脆弱性と、これら痛ましい重大事故の積み重ねがあります。
医学関係者の臨床データが示す後遺症リスクは、低酸素脳症だけにとどまりません。
- 甲状軟骨・輪状軟骨の骨折:素人が技を仕掛けると、腕が首の側面に収まらず喉頭隆起(喉仏)を正面から圧壊し、軟骨骨折や気道内出血を引き起こす。急性喉頭浮腫により受傷から数時間後に窒息死する危険がある。
- 内頸動脈解離と脳梗塞:強い剪断力(ねじる力)が首に加わることで、血管の内膜が裂ける「頸動脈解離」を誘発。血栓が形成されて脳動脈を塞ぎ、後日、半身不随や言語障害を伴う重篤な脳梗塞を発症する。
- 頸椎捻挫および神経損傷:背後から全体重を浴びせる形で首をロックして後方へ倒れ込んだ場合、頸椎に過度の回旋・屈曲ストレスが加わり、頸髄損傷による四肢麻痺のリスクを招く。
総合格闘技のトップ選手が自著や手記で「絞め技は相手を殺傷できる凶器を素手で握っているのと同じ」と述懐するように、マットの外でこの技を用いる行為は、相手の生命維持装置のスイッチを素人が無造作に弄ぶ行為に他なりません。