フレグランス初心者が陥りがちな最大の罠が、「パルファムは濃度が高いから、EDPよりもキツく香るのではないか」という思い込みです。この認識は香水工学の観点から明確に否定されます。
香りの立ち上がりと拡散力(シヤージュ=残り香の広がり)を決定づけるのは、アルコールと揮発性成分の比率です。アルコール濃度の高いオードトワレやオードパルファムは、香料を空気中に勢いよく揮発させるため、周囲に強く拡散します。これに対して、香料オイルの比率が高いパルファムは、揮発スピードが極めて緩やかです。香りは肌の表面に密着し、体温でじわじわと温められながら、自分の周囲数十センチの範囲に留まります。
つまり、オフィスや満員電車、密室空間において「香害」のリスクが高いのは、むしろ拡散力の強いオードパルファムの方です。パルファムは高濃度でありながら、驚くほどプライベートで穏やかな性質を持っています。この力学を理解していないと、シーンに応じた選択を見誤ることになります。