在宅看取りや緩和ケア病棟の現場を取材すると、ご家族が最も強い精神的苦痛を感じるのは「呼吸停止している数秒間の沈黙」と「再び息を吹き返した瞬間の大きな息遣い」です。
大手Q&AサイトやSNS、看取りの手記などには、次のような切痛な家族の声が溢れています。
「息が止まるたび、心臓が縮み上がる思いで胸を見つめていた」
「大息をつく姿が、まるで溺れて息を吸おうともがいているように見えて耐えられなかった」
こうしたリアルな不安に対し、現場の終末期看護師や緩和ケア医は共通した見解を示します。
「家族の目には、呼吸が止まる瞬間が激しい窒息の苦痛に見えるかもしれません。しかし医学的には、この段階の患者様は血中の二酸化炭素の蓄積や全身の代謝低下によって脳の感受性が穏やかに麻痺しており(炭酸ガスナルコーシス等の状態)、本人が息苦しさや恐怖を感じている可能性は極めて低いと評価されています」
外見上の激しい呼吸のアップダウンと、患者本人が感じている主観的な苦痛には大きな隔たりがあります。患者自身は深い眠りや心地よい夢の中にいるような状態であり、決して「苦しくて喘いでいる」わけではないという事実を理解することが、看取る側のパニックを防ぐ何よりの防壁となります。