ラマダン(Ramadan)とは、イスラム暦(ヒジュラ暦)における第9番目の月の名称を指します。日本では「ラマダン=断食(サウム)」そのものと混同されがちですが、本来は「断食を行う月」という暦上の期間を表す言葉です。断食は、信仰告白・礼拝・喜捨・巡礼と並ぶイスラム教の「五行(信仰の実践義務)」の一つに位置づけられています。
ムスリムがこの月に断食を行う最大の根拠は、イスラム教の聖典『クルアーン(コーラン)』が預言者ムハンマドに対して初めて啓示された特別な月だからです。宗教関係者の解説や教義資料によると、ラマダン断食の理由は単なる自己犠牲ではありません。日々の飽食や欲望から意識的に距離を置くことで神への感謝を深め、飢えや渇きの痛みを身をもって知ることで、貧困に苦しむ社会的弱者への慈悲や連帯感を育むことが真の狙いです。さらに、悪口や怒り、嘘といった精神的な穢れを慎み、己の言動をコントロールする自制心(タウバー)の鍛錬という意味合いも強く込められています。
毎年ラマダンの時期がカレンダー上で変動する背景には、イスラム暦ヒジュラ暦の仕組みが深く関係しています。太陽の運行を基準とする一般的な西暦(グレゴリオ暦)とは異なり、ヒジュラ暦は月の満ち欠けのみを基準とする純粋太陰暦を採用しています。1年は約354日であり、太陽暦に比べて毎年およそ10〜11日ずつ前倒しになっていきます。このため、約33年の周期で季節を一巡し、夏に訪れるラマダンもあれば、冬に迎えるラマダンも経験することになります。