愛知県名古屋市西区江向町のエイトビル1階に暖簾を掲げる「中華そば 万楽」。最寄りの地下鉄鶴舞線・庄内通駅から徒歩圏内にありながら、県内外からわざわざ自家用車で駆けつける客が後を絶ちません。この地で万楽のラーメンが四半世紀以上にわたり熱狂的な支持を集める背景には、創業者の揺るぎない原体験があります。
店舗の公式記録によると、店主はかつて15年間にわたり本格的な中華料理店を営んでいました。しかし「もっと美味しくてボリュームがあり、誰もが気軽に毎日食べられる安価なラーメンを提供したい」という強い志から、既存の中華店に幕を下ろし、昭和62年(1987年)にカウンターわずか11席のラーメン専門店として再出発を切った経緯があります。
万楽最大の特徴であり、代名詞とも言えるのが万楽の薬膳ラーメンと称されるスープです。一般的な豚骨醤油ラーメンは動物系のパンチや脂のコクで押すスタイルが主流ですが、万楽のスープは十数種類の生薬や漢方素材を豚骨・鶏ガラとともにじっくり炊き上げています。「薬膳」と聞くと苦味や独特の漢方臭を連想しがちですが、万楽の一杯は全く異なります。角の取れたまろやかな醤油ダレと動物系の厚み、そして薬膳由来のほのかな甘みとスッキリとしたキレが見事な調和を見せており、飲み干した後も喉の渇きや胃もたれを感じさせません。
毎朝打ち立てられる自家製の中太縮れ麺は、プリッとした強い弾力と心地よい喉越しを持ち、この重層的な滋味スープをしっかりと引き上げます。派手なトレンドに左右されず、身体が本能的に「また食べたい」と記憶してしまう味覚構造こそが、長蛇の列を作り続ける根本的なメカニズムです。