脊髄損傷のリハビリテーション医学において、受傷部位が「C5か、C6か」の差は、その後の人生の自立度を大きく左右する分水嶺として知られています。
C5レベルの損傷では肩の挙上や肘の屈曲(上腕二頭筋)までしか機能が残存しません。しかし、第6頸髄節が残存するC6頸髄損傷になると、手首を反らす主動筋である長橈側手根伸筋(ECRL)および短橈側手根伸筋(ECRB)の支配が保たれます。手指を曲げる筋肉(C8レベル支配)は麻痺して動かないにもかかわらず、手首を上に跳ね上げる力だけは自力で発揮できる状態が生まれるのです。
「指はまったく動かない。それでも手首を起こせば、スプーンが指の隙間にロックされる。自分で食べ物を口へ運べたあの瞬間、人生がもう一度つながった感覚がした」――。受傷後に自立訓練を重ねた当事者の手記には、テノデーシス把握を獲得した日の情景が克明に綴られています。
手首の伸展筋力を使い、テノデーシスアクションによって母指と示指の側面に物品を挟み込む側腹つまみ(キーピンチ)や、四指で太いグリップを抱え込む把持動作が可能になります。これにより、以下のようなADL(日常生活動作)の飛躍的な自立が切り拓かれます。
・摂食動作:万能カフを使わずとも、適切な太さに調整されたフォークやスプーンを保持できる。
・整容・排泄動作:歯ブラシの把持、導尿カテーテルの取り回しの一部自立。
・情報端末の操作:タッチペンやスタイラスを挟み込み、スマートフォンやタブレットを操作。
・移動動作:手首の背屈を利用して掌面をホイールに押し当て、手動車椅子を前進させる。