モデルとして頂点を極めつつあった20代後半、彼女の胸中には強い焦燥感が生じていました。「30代、40代になってもこの仕事を続けられるのか」という職業人としての危機感です。そこに転機が訪れます。31歳を目前にした2006年、広末涼子や戸田恵梨香らを擁する実力派芸能事務所「フラーム」からスカウトを受けました。
しかし、事務所側から提示された契約条件は極めて過酷なものでした。それが「女優業に専念するため、現在のモデルの仕事をすべて辞めること」だったのです。すでに30歳を過ぎており、演技経験はほぼゼロ。安定した高収入と築き上げてきた地位を完全に手放すことを意味していました。
これこそが、知られざる吉瀬美智子女優デビューの経緯における最大の賭けでした。彼女は自らのトレードマークであったロングヘアをバッサリと切り落とし、代名詞となるショートカットへ変貌を遂げます。甘さを徹底的に削ぎ落としたスタイリングは、芸能界に溢れていた「元モデル女優」の枠を打ち破り、知性と謎を秘めた大人の女性という独自のポジショニングを確立させました。
その直後に掴んだドラマ『LIAR GAME』(2007年・フジテレビ系)のエリー役、そして『ブラッディ・マンデイ』(2008年・TBS系)のテロリスト・折原マヤ役が、吉瀬美智子ブレイクのきっかけとなります。冷徹な笑みを浮かべ、銃を構えるその妖艶な姿は、20代のコンサバモデル時代を知るファンに凄まじい衝撃を与え、「あのクールな美女は誰だ」と世間を騒然とさせました。