若い頃の渡辺美佐子は、吸い込まれそうな大きな瞳とシャープなフェイスライン、知性を漂わせるコケティッシュな魅力で、映画界・演劇界の注目を一身に集めました。俳優座養成所の第3期生として演技の基礎を徹底的に叩き込まれ、同期の愛川欽也や穂積隆信らとともに切磋琢磨した経歴を持ちます。
映画界での決定打となったのが、1958年に公開された今村昌平監督の傑作『果しなき欲望』です。強烈なリアリズムと人間の業を描いた本作において、圧倒的な存在感を放ち、第9回ブルーリボン賞助演女優賞を受賞。一躍、日本映画界に欠かせない若手実力派としての地位を確立しました。
その後も向田邦子脚本のドラマシリーズや数々の名作劇映画に出演し、昭和の名監督たちから絶大な信頼を寄せられました。舞台分野においては、劇作家・井上ひさしが彼女のために書き下ろした一人芝居『化粧』が金字塔となります。開演前の楽屋で化粧を落としながら、捨てた我が子への想いを独白する大衆演劇の座長役を全身全霊で演じ、1982年の初演から国内外で通算600回以上の上演を重ねる伝説を築き上げました。