カルピスこども劇場(後の世界名作劇場)の第1作として放送された本作の第52話(最終回)「アントワープの天使」は、希望をすべて断たれた少年の最後の数時間を描いています。最愛の祖父ジェハンを亡くし、風車小屋の火災の濡れ衣を着せられて牛乳運搬の仕事を奪われたネロ。一発逆転を賭けた絵画コンクールでも落選し、住んでいた小屋からも追い出されたクリスマスの前夜、彼に残されたのは絶望だけでした。
雪の吹きすさぶ中、ネロは風車小屋の持ち主であるコゼツ旦那が落とした大金(2,000フラン)入りの財布を拾います。ネロはその全額をコゼツ家に届け、自ら預けたパトラッシュに「お前だけでも温かい家で幸せに暮らすんだ」と言い残して猛吹雪のアントワープ(アントウェルペン)市街へと姿を消しました。しかし、パトラッシュはご馳走の皿に目もくれず、主人の匂いを追って極寒の雪夜を疾走します。
行き着いた先は、ネロがずっと憧れ続けていたアントワープ大聖堂でした。普段は銀貨を払わなければ見ることのできない祭壇画の前に倒れ込んでいたネロのもとへ、パトラッシュが駆け寄ります。そのとき、雲が切れて差し込んだ月の光が、ペーテル・パウル・ルーベンスの最高傑作『キリスト昇架』と『キリスト降架』の覆い布を照らし出しました。
生涯の念願だった絵を目にしたネロは、傍らで体を寄せる愛犬を抱きしめ、静かに呟きます。
「パトラッシュ、疲れたろう。僕も疲れたんだ。なんだかとても眠いんだ、パトラッシュ…」
このネロ最後のセリフを合図に、聖歌の合唱とともに天から無数の天使が舞い降り、二人の無垢な魂を天国へと導く「フランダースの犬 天使 ラストシーン」へと突入します。翌朝、改心した村人やネロの才能を認めた画家が駆けつけたとき、大聖堂の冷たい石畳の上で二人は寄り添ったまま冷たくなっていました。