牛頸ダムが過剰に恐れられるもうひとつの要因は、福岡県内に点在する著名な心霊スポット情報との「意図しない混濁」です。福岡県には、映画の題材にもなった「旧犬鳴トンネル(犬鳴峠)」や、猟奇的な殺人事件の現場となった「力丸ダム」など、全国的な知名度を持つスポットが存在します。
SNSや匿名掲示板の書き込みを分析すると、他の場所で起きた凶悪事件のディテールが、いつの間にか牛頸ダムの出来事としてすり替えられているケースが散見されます。
「牛頸ダムの底に沈んだ村の呪い」という噂もその代表例です。牛頸川流域の歴史を調査すると、ダム建設に伴う集落の移転事業は行われたものの、住民との協議を経て計画的に補償・移転が進められたものであり、怪談で語られるような「怨念渦巻く廃村」の実態はありません。「牛頸」という特異な地名が持つ土着的な響きが、人々の恐怖心を刺激し、事実無根の伝承を補強してしまったと考えられます。