顔の識別困難が日常生活に深刻な支障をきたすケースとして、医学的に注目されているのが相貌失認(そうぼうしつにん:Prosopagnosia)です。先天的な要因、あるいは脳卒中や外傷など後天的な損傷によって引き起こされ、視力や一般的な知能に問題がないにもかかわらず、人の顔だけが判別できなくなります。
公立大学法人や国際的な認知神経科学学会の調査データによると、先天性の相貌失認は全人口の約2.0〜2.5%に存在すると推計されています。決して極めて稀な疾患ではなく、クラスや職場に1人は該当者がいても不思議ではない出現率です。
当事者の手記やSNSでの告白では、「実の家族でも髪型や服装が変わると街中で見失う」「映画を観ても登場人物の区別がつかずストーリーが追えない」「職場で挨拶を無視したと誤解され孤立した」といった切実な苦悩が報告されています。一般的な「物忘れ」と相貌失認の間には、明確な認知特性の違いが存在します。
相貌失認の特徴と診断においては、ケンブリッジ顔記憶テスト(CFMT)などの標準化された検査や、頭部MRIによる側頭葉病変の有無が用いられます。「自分が単に失礼な人間なのではないか」と自責の念に駆られていた人が、診断基準を知ることで精神的な安堵を得るケースは少なくありません。