彼女の表現活動を初期から知る者にとって、元夫である音楽家・プロデューサーとの関係は、単なる夫婦という枠組みを超えた共同制作者のような結びつきでもあった。作詞家としての活動期を経て作家デビューを果たすまでの道のりにおいて、互いの才能を認め合い、刺激を与え合ってきた歴史は確かに存在する。
しかし、年齢を重ね、互いが求める人生の景色や表現の純度が研ぎ澄まされていくにつれ、ふたりの距離感には少しずつ変化が生じていった。どちらかが一方的に傷つけ合ったわけではない。互いを尊重するからこそ、お互いの魂がもっとも心地よく息づける「個」としての生き方を選び直す。それは、互いの人生を縛り合わないための、極めて前向きで成熟した別離であったといえる。
小川糸が綴るエッセイの随所に滲み出ていた「自分自身の足で大地に立つ」という強い意志。離婚という選択は、彼女が自分自身の人生に対して下した、極めて誠実な答えだった。