丸サ進行をさらに深くアナライズすると、単なるダイアトニックコードの羅列ではない、緻密に計算されたテンションノートの配置が浮かび上がってきます。当時のレコーディングエンジニアやプロデューサーの亀田誠治氏が後年のインタビューで振り返るように、デビュー当時の椎名林檎のデモ音源には、すでにクラシックやジャズ、グランジロックが未分化のまま混ざり合った、高度な和声感覚が刻み込まれていました。
特に注目すべきは、各コードの上部で鳴り響く「トップノートの半音下降ライン」とテンションの緊張感です。
第2コードの「E7」において、ジャズやファンクで多用される「#9th(シャープナインス)」のテンションを付加すると、構成音に「ソ(G)」が含まれます。これはブルースで多用されるブルーノートであり、マイナーペンタトニック的な泥臭さと、都会的なジャズの響きが同居する瞬間です。続く「Am7」では9th(シの音)を乗せることで、暗すぎない透明感のある響きへと昇華されます。
さらに最後の「C7」は、次の「FM7」に対するドミナントセブンスとして機能しますが、ここにあえて「13th(ラ)」や「9th(レ)」をテンションとして絡めることで、ベースラインの強烈な推進力とは対照的に、上声部は洒脱でアンニュイな空気をまといます。機能和声の厳密なルールをなぞりながらも、半音のぶつかりを恐れずに配置する椎名林檎独自のコードボイシング感覚が、凡百のJ-POPとは一線を画す「毒気と気品」を成立させているのです。