小野小町ほど、実体とイメージの乖離が激しい人物も珍しい。絶世の美女と謳われながら、同時代の具体的な容姿を描いた確実な史料は存在しない。六歌仙の一人として『古今和歌集』に名を連ねる彼女の本質は、言葉の構造を解体・再構築する卓越したレトリックの使い手であり、宮廷サロンにおける高度な言論闘争の勝者だった。
「花の色はうつりにけりな」に代表される歌群に漂うのは、単なる老いへの嘆きではない。権力闘争が渦巻く宮廷社会において、自らの立場が流動化していく現実を冷徹に見つめる観察眼である。後世が生み出した「深草少将の百夜通い」に代表される高慢な美女像は、男性側の欲望と挫折が生み出した虚構に過ぎず、小野小町の実像はむしろ、過酷な宮廷政治を和歌という武器一つで生き抜いた孤高の知識人であった。