私生活での激動を経験する一方で、倍賞美津子の女優としてのキャリアは昭和後期から平成にかけて驚異的な頂点を極めます。その名を日本映画史に永遠に刻んだのが、1979年に公開された今村昌平監督の傑作『復讐するは我にあり』でした。
連続殺人犯・榎津巌(緒形拳)を愛してしまう情念の女を演じ切った彼女は、ブルーリボン賞助演女優賞や日本アカデミー賞最優秀助演女優賞をはじめとする名だたる映画賞を独占。美貌の奥底に横たわる「剥き出しの人間の業」を圧倒的な熱量で演じ、単なる美人女優から日本を代表する本格派演技者へと脱皮を遂げました。
さらに彼女の輝きは国境を越え、カンヌ国際映画祭の舞台でも伝説を残します。
- 『楢山節考』(1983年・今村昌平監督):第36回カンヌ国際映画祭で最高賞パルム・ドールを受賞。過酷な北信州の寒村で生き抜く農民の生命力を体現。
- 『うなぎ』(1997年・今村昌平監督):第50回カンヌ国際映画祭で再びパルム・ドールを獲得。傷ついた人々の再生を温かく見守るキーパーソンを好演。
- 『影武者』(1980年・黒澤明監督)および『夢』(1990年):黒澤明監督からもその堂々たる佇まいを絶賛され、巨匠の世界観に欠かせぬ存在として重用。
ひとりの女優が主演・重要キャストとして携わった作品が、世界最高峰のカンヌで最高賞を2度も制覇した実績は、日本映画界において極めて稀有な記録です。