「世界的なデジタル化の流れにより、フィリピンもスマホ決済やクレジットカードだけで快適に旅行できる」という主張は、現場の実情を著しく軽視した危険な誤解です。首都圏マニラのBGC(ボニファシオ・グローバルシティ)やマカティの一等地に限れば、確かにスターバックスや高級レストラン、Grab配車でクレジットカード決済が完結します。しかし、一歩路地に入った個人商店(サリサリストア)、伝統的市場、トライシクルやジプニーなどの公共交通機関では、現金(キャッシュ)決済のみが絶対的な支配力を持っています。
さらに、現地で最も普及しているモバイル決済「GCash」や「Maya」は、外国人旅行者が日本のクレジットカードから直接チャージしようとしても弾かれるケースが多く、本格利用には現地SIMカードの登録や厳格な本人確認(KYC)手続きが要求されます。結果として、観光客や短期滞在者が頼れるのは依然として物理的なペソ紙幣です。
また、行動経済学における「プロスペクト理論」が示すように、人間は「少しでも得をしたい」という欲求から、治安の悪い裏通りの怪しげな両替商に吸い寄せられがちです。マニラのエドサ通りやエルミタ・マラテ地区の路地裏には、公式レートを偽って店頭看板に異常な高値を掲示する悪質な両替店が存在します。そこでは、熟練した手さばきで紙幣を数える間に数枚をカウンター下に落とす「手品まがいの抜き取り」や、旧札・偽札の混入被害が後を絶ちません。数十ペソのレート差を追い求めて裏路地に入り、強盗や詐欺に遭遇して全財産を失っては本末転倒です。両替は「セキュリティガードが常駐するショッピングモール内」または「空港ブース」で行うのが、リスク調整後の最適解となります。
もう一つの重大な罠が、ATM利用時やクレジットカード決済時に画面に表示される「DCC(Dynamic Currency Conversion:自国通貨建て決済)」の選択です。ATM画面に「日本円で確定しますか?(Convert to JPY)」あるいは「フィリピンペソで処理しますか?(Without Conversion)」と問われた際、安心感を覚えて「日本円」を選択すると、現地銀行が独自に設定した3〜7%もの法外な為替手数料が上乗せされます。画面に日本円換算額が表示されたら、迷わず「現地通貨建て(Without Conversion / PHP)」を選択することが、損失を防ぐ決定的なテクニックです。