資料館のリニューアルに際して、インターネット上やSNSで最も大きな議論を巻き起こしたのが「被爆再現人形の撤去」でした。かつて展示されていた、皮膚を垂らしながら瓦礫の街を彷徨う被爆者のジオラマ人形は、多くの日本人にとって修学旅行のトラウマとして記憶に刻まれていました。
ネット上では当時、「残酷すぎるという苦情に屈したのではないか」「展示をマイルドにして事実を隠蔽しようとしている」といった批判や誤解が飛び交いました。しかし、現場取材と当時の検討委員会記録を精査すると、広島平和記念資料館の評判と感想に横たわる真相は全く異なる次元にあったことが分かります。
撤去の真意は、「作り物の人形」がどんなに精巧であっても、被爆者が実際に身につけていた衣服や遺品が放つ“本物のリアリティ”には敵わないという、学術的・学芸員的見地からの判断でした。関係者の証言によると、「来館者が作り物の造形に目を奪われ、恐怖感だけを持ち帰ってしまうことを防ぎたかった。実在した人間が直面した現実を、本物の遺品を通して直視してほしい」という意図が貫かれていたのです。
実際にリニューアル後の展示室に足を踏み入れると、恐怖を煽る演出は一切排除されています。しかし、剥き出しになった事実の重みは、かつての人形展示をはるかに凌駕する痛切さをもって迫ってきます。事実を薄めたのではなく、むしろ「事実の純度を極限まで高めた」ことこそが、リニューアルの真の成果であったと言えます。