現代の絵本では、おばあさんが化け物に驚いて腰を抜かし、改心しておじいさんと仲良く暮らしましたという結末が一般的です。しかし、室町時代の『御伽草子』や各地に伝わる口承民話の原形を紐解くと、そこには容赦のない「本当は怖い話」が記録されています。
各地の伝承記録や民俗学の古文書によると、重いつづらから飛び出した妖怪や大蛇、悪鬼たちはおばあさんを取り囲み、「生きたまま八つ裂きにして食い殺す」「鋭い爪で目を抉り、谷底へと引きずり落とす」といった凄惨な結末が語り継がれていました。江戸時代の赤本や草双紙においても、おばあさんは恐怖のあまり発狂して命を落とす描写が珍しくありません。
民俗学の観点から見ると、この物語が伝える『舌切り雀の教訓』には多層的な構造が存在します。
第一に、「無償の愛と見返りを求めない利他精神(おじいさん)」対「見返りのみを要求する収奪的利己主義(おばあさん)」の対比です。第二に、雀のお宿という「日常世界の境界を越えた異界(常世の国)」に対する礼節です。おじいさんは招かれて謙虚に客礼を尽くしたのに対し、おばあさんは土足で異界に侵入し、歓待を強要しました。この「他者や自然への敬意を欠いた侵犯行為」に対する絶対的な制裁こそが、つづらの中身がもたらした恐怖の本質です。