作詞家として頂点を極めた山口洋子は、やがて小説の世界へとその表現の場を広げていく。1985年、自らの代表作となる『演歌の竜』および『居酒屋兆治』で、最高の誉れである直木三十五賞を受賞した。夜の街や酒場を舞台に、生きづらさを抱える人々の吐息を描き出した文学世界は、文藝春秋の選考委員たちから絶賛を浴びることとなった。
特に『居酒屋兆治』は、高倉健主演で映画化され、日本映画史に刻まれる不朽の名作となった。銀座のクラブ経営者、作詞家、そして直木賞作家。一見すると華やかな肩書が並ぶが、出版関係者の証言によれば、彼女は執筆に対して極めてストイックであり、原稿用紙に向かう姿は鬼気迫るものがあったという。虚飾を排した鋭い描写は、まさに彼女自身が歩んできた波乱の人生そのものの写し鏡だった。