アスリートや芸能人の背中に突如現れる直径5センチから7センチほどの丸い変色痕。初めて目にした人が「暴行を受けたのではないか」「重い皮膚病ではないか」と息を呑むのも無理はありません。しかし、これは偶発的な外傷ではなく、カッピング療法(中国医学では「抜罐療法(ばっかんりょうほう)」)と呼ばれる施術によって意図的に作られた反応です。
吸い玉の起源は驚くほど古く、古代エジプトの医学書「エーベルス・パピルス(紀元前約1550年)」や、古代ギリシャのヒポクラテスの著作にも類似の吸引療法の記述が見られます。中国伝統医学においては、動物の角を煮沸して吸着させる「角法」から始まり、竹筒、陶器、ガラス、そして現代のプラスチック製電動吸引カップへと進化を遂げてきました。
皮膚が丸く変色する物理的なメカニズムは、カップ内部を真空に近い状態にする「陰圧(陰圧負荷)」にあります。通常、マッサージや指圧などの手技療法は皮膚を外側から「押す(陽圧)」刺激ですが、吸い玉は皮膚を外側へ「引っ張り上げる(陰圧)」刺激を与えます。この強力な陰圧によって皮下の微小毛細血管に圧力がかかり、血管壁を透過した赤血球が皮下組織へと浸潤します。これが医学用語でいう「溢血斑(いっけつはん)」であり、皮膚表面から透けて見えることであの特徴的な円形のアザが形成されるのです。