世界中で使われているカスタネットの中で、なぜ日本の学校教材だけが鮮やかな「赤と青のツートンカラー」をしているのでしょうか。その歴史を紐解くと、昭和初期の日本で生まれた「ミハルス(miharusu)」という画期的な教育楽器に行き当たります。
1930年(昭和5年)頃、舞踊家であり幼児教育者でもあった宮武平八郎氏が、子どもたちがカスタネットを指先で器用に打ち鳴らすことが難しく、落として怪我をしたりリズム学習に集中できなかったりする課題を解決するために考案しました。考案者の妻である「美春(みはる)」さんの名前にちなんで名付けられたミハルスは、木片同士を金属バネや独自の紐でつなぎ、手のひらで挟んだり軽く叩いたりするだけで明瞭な音が出るよう工夫されていました。
戦後の学制改革に伴い、文部省(当時)が小学校の音楽教育を整備する中で、ミハルスの基本設計を取り入れたカスタネットが教材として正式採用されます。その際、木片を赤と青に塗り分けた背景には、「視覚的な直感性」と「ジェンダーフリーな学習配慮」という明確な設計思想がありました。
低学年の児童に対して「平らなほうを下に」「窪みがあるほうを上に」と言葉で指示しても伝わりにくい現場において、「赤いほうを手の上に乗せて、青いほうをトントンしようね」という声かけは一瞬で全員の理解を統一できます。また、当時は男児用・女児用として文房具が色分けされる風潮が根強くありましたが、1つの楽器の中に赤と青の両方を配色することで、性別に関わらず誰もが等しく同じ楽器を共有できるという配慮も込められていたと教育史において記録されています。