都市部や住宅地で「ケシ騒動」が勃発する現場を取材すると、意図的な栽培ではなく、不可抗力による自生が圧倒的多数を占めている事実が浮き彫りになります。関東近郊の保健所環境衛生課の担当者は次のように実情を吐露します。
「春先のパトロール期間中、住民から『自宅の庭に見たこともない巨大な紫の花が咲いた』『隣家の花壇にある植物があへんケシではないか』という相談が何十件も寄せられます。現場へ急行すると、ホームセンターで購入した輸入花壇用土や小鳥の餌(鳥のエサに含まれる加熱処理が不完全だった種子)から発芽したアツミゲシであることが少なくありません。住民の方々は一様に『まさか自分の庭に麻薬の原料が生えるなんて』と青ざめられます」
ネット上のコミュニティサイトや知恵袋でも、「散歩道で見つけたオレンジ色のポピーを家に持ち帰って植え替えたら、周囲の植物が全滅した」というトラブル相談が頻発しています。この正体の多くは、道路の路肩やアスファルトの隙間を覆い尽くしているナガミヒナゲシ危険性に関わる問題です。
地中海沿岸原産のナガミヒナゲシはあへん成分を含まないため法規制の対象外ですが、1株から最大で約15万粒もの微小な種子を放出し、爆発的な繁殖力で在来の生態系を駆逐します。さらに、根や葉から他の植物の生育を阻害する化学物質(アレロパシー物質)を分泌するだけでなく、茎を折った際に出る黄色い乳液には有毒アルカロイドが含まれており、素手で触れると皮膚炎やかぶれを引き起こす危険性があります。「違法ではないから無害」という認識は、都市環境の安全管理上、重大な誤解を招く要因となっています。