『仮面ライダーアギト』における仮面ライダーG3という存在は、歴代の変身ヒーローの中でも極めて特異な立ち位置にありました。アギトやギルスといった他のライダーが神話的な超能力や肉体変化によって超常の力を発揮するのに対し、G3はバッテリー駆動の重火器と装甲服を身にまとった「警視庁の公務員」です。
序盤のG3は、未知の怪人・アンノウンに対して銃撃がほとんど通用せず、毎話のように装甲を破壊され、頭部ユニットから火花を散らして倒れ伏す「ボコボコにされるライダー」でした。装着者である氷川誠は、エリート捜査官でありながら極度の不器用で、豆腐を掴めば崩し、スプーンを曲げてしまうような愛すべき青年。しかし、いざ怪奇事件が起きれば、死の恐怖に震えながらも「市民を守る」という一念だけで立ち上がります。
現場での撮影は過酷を極めました。当時のG3スーツは総重量が20キログラム近くあり、装着するだけでもスタッフ数名がかりで30分以上の時間を要しました。通気性は皆無に等しく、真夏のロケではスーツ内部の温度が50度近くまで上昇し、冬場は冷気が装甲を通じて容赦なく肉体を痛めつけます。
何より要潤を鍛え上げたのは、演出陣による容赦のない怒号でした。「歩き方ひとつできていない」「お前の芝居には魂がない」と連日メガホン越しに厳しい叱責が飛び、撮影所の片隅で悔しさに唇を噛む日々。しかし、その逃げ場のないプレッシャーが、やがて「生身の人間が超常の暴力に立ち向かう」という氷川誠の切迫感と完全にシンクロしていきました。
物語中盤、限界を感じた警視庁が開発した最新鋭システム「仮面ライダーG3-X」が登場します。搭載されたAIの完璧すぎる戦闘予測に装着者が振り回され暴走する中、最終的にG3-Xを制御できたのは、エリート戦士ではなく「人間らしい迷いと愚直な勇気」を持ち続けた氷川誠でした。この熱いカタルシスは、当時の子どもたちだけでなく、日曜朝のテレビ画面を見つめていた大人の視聴者の胸を激しく揺さぶりました。