「寿司屋の力量を知りたければ、玉子焼きとかんぴょう巻きを食べればわかる」と昔から語り継がれてきました。原価自体は高級魚に及ばないものの、仕込みの手間と技術の巧拙がそのまま味に出るためです。原料となる干瓢は、栃木県の特産品として全国シェアの9割以上を誇るウリ科の植物「ユウガオ」の実を帯状に剥いて乾燥させたもの。職人はまず、この繊維組織をいかに均一に戻すかという工程に全神経を集中させます。
仕込みの成否を分けるかんぴょうの戻し方と煮方には、厳格なプロセスが存在します。水洗いしたかんぴょうに適量の塩を振り、指の腹で繊維がしなやかになるまで丹念に揉み込む「塩揉み」を行います。これにより表面の雑味やアクが抜け、弾力のある弾性が生まれます。塩を洗い流した後はたっぷりの湯で爪がすっと通る硬さまで下茹でし、流水にさらして完全に戻します。
そして極め付きが、老舗が代々磨き上げてきたかんぴょう巻きの味付け黄金比です。一般家庭でもプロの味を再現できる黄金比率は以下の通りです。
【かんぴょう40g(乾燥時)に対する調味液比率】
・出汁(昆布・鰹):400ml
・濃口醤油:大さじ3(約45ml)
・上白糖または三温糖:大さじ3〜4(約40g)
・みりん:大さじ2(約30ml)
・酒:大さじ1(約15ml)
煮含める際の寿司職人の仕込み技術における肝は、調味料を一度に入れない点にあります。最初に出汁と砂糖、みりんで炊き、甘味を繊維の芯まで浸透させてから、段階を分けて醤油を加えます。最初から塩分を入れると浸透圧で繊維が締まり、硬く筋張ってしまうためです。煮汁が鍋底にわずかに残る程度まで落とし蓋でじっくり煮詰め、煮汁の中で一晩冷まして味を含ませることで、噛んだ瞬間にジュワッと旨味が溢れ出す極上のかんぴょうが完成します。