「笑ってはいけない」を象徴する屈指の名物演出といえば、大晦日の風物詩となっていた蝶野正洋 方正ビンタです。プロレスラーの蝶野正洋氏が何らかの因縁をつけて登場し、理不尽極まりないロジックで月亭方正(旧・山崎邦正)氏を追い詰め、強烈なビンタを叩き込むシークエンスは、10年以上にわたり視聴率の瞬間最高到達点を記録し続けました。
しかし、この名シーンに対しても笑ってはいけない ネットの反応は年を追うごとに二極化していきました。SNSや掲示板、Q&Aサイトなどでの視聴者コミュニティの推移を検証すると、時代の変遷に伴う空気の変化がはっきりと見て取れます。
肯定派からは「これを見ないと年が明けた気がしない」「予定調和と分かっていても方正の怯える表情と蝶野の怪演で大爆笑してしまう」という伝統芸能的な支持が集まる一方、2010年代後半からは「毎年同じパターンで飽きが来た」「痛がる姿を笑う演出が子どもに悪影響を与えないか不安」「見ていて気の毒になる瞬間がある」という批判的な声が目立ち始めました。
蝶野氏自身も後のインタビューやトークイベントで、「方正君とは事前に一切打ち合わせをせず、本気で驚かせるために極度の緊張感を持って現場に臨んでいた」「実は自分自身も腰や首に持病を抱えており、年々フルスイングで叩く負担が大きくなっていた」と明かしています。また受ける側の方正氏も、落語家としての本格的な活動を広げる中で、首へのダメージや耳への影響を真剣に案じる声が周囲の関係者から上がっていました。大衆が熱狂した様式美の裏側で、演者たちが文字通り身を削りながら成立させていた危ういバランスが、時代のコンプライアンス意識の高まりとともに耐用年数を迎えていたと言えます。