駅から徒歩で南へ向かうと、多摩丘陵の傾斜地を這うようにつづら折りの道路が続く「いろは坂」が見えてきます。作中で雫が図書館へ向かう途中、黒猫のムーンを追いかけて駆け上がった印象的なショートカットが、いろは坂の階段です。
段数にして100段を超えるコンクリートの細い階段の脇には、住宅の石垣と鬱蒼とした木立が迫り、劇中のアングルが極めて高い精度で残されています。階段の中腹で息を切らして振り返ると、遠くに府中方面の街並みと多摩川の谷が広がり、アニメで描かれたあの開放的な構図そのものが目の前に現れます。現地を訪れたファンからは「映画のカメラワークが実際の地形の起伏をいかに忠実に計算して描かれていたかがよく分かる」という感嘆の声が絶えません。
階段を登り、いろは坂の中腹から一本路地を入った住宅街の奥に鎮座するのが金比羅神社です。ここは野球部の杉村が、雫に対して不器用に想いを告げ、あっさりと振られてしまう名場面の舞台となった場所です。
敷地は非常にコンパクトで、静けさに包まれた境内には小さな社殿がひっそりと佇んでいます。長年ファンが自主的に設けていたノートや手作りの絵馬に端を発し、現在では境内におみくじの自動頒布機が置かれるなど、杉村の告白シーンを愛する巡礼者の心の拠り所となっています。派手な観光施設ではなく、地域に根づいた鎮守の杜だからこそ醸し出されるリアルな静けさが、思春期の切ない記憶を色鮮やかに呼び覚まします。