なぜここまで「引退」という言葉が定期的にトレンド入りするのでしょうか。そこには、YOSHIKIという稀代のプロデューサーが持つ情報発信のスタイルと、現代のデジタルメディアの消費構造の歪みが関与しています。
第1の盲点は、「記者会見での劇的なレトリックの切り取り」です。YOSHIKIは常に「これが人生最後の挑戦」「遺言のつもりで創った」という極限の心理状態で言葉を発します。昭和から平成を駆け抜けたロックアーティスト特有の劇的な語り口が、ウェブメディアの見出し至上主義(クリックベイト)によって「YOSHIKI、ついに活動終了を示唆か」「ドラマー引退を明言」といった歪んだテキストに再構成され、読者の不安を煽ってきました。
第2の盲点は、「ドラマー引退」と「音楽家引退」の混同です。一般のリスナーにとって「YOSHIKI=首を振ってドラムを破壊する男」という記号的イメージが強烈すぎるあまり、ドラムを叩けない状態イコール芸能界・音楽界からの引退と短絡的に結びつけられてしまう傾向があります。
実際には、彼の収益構造やクリエイティブの領域は、すでにドラム演奏依存から完全に脱却しています。映画音楽のスコア制作、アパレルブランド「MAISON YOSHIKI PARIS」のディレクション、新世代アーティストの育成プロジェクト、ワイン事業など、その活動領域は多岐にわたります。ドラムスティックを置くことは、彼にとって「表現者としての死」ではなく、「総合芸術家への完全移行」を意味しているという視座を見落としてはなりません。